釣行の楽しみは釣りだけじゃない、と気づいたのはわりと最近です。
釣りに集中しすぎていたころは、釣り場と車の往復だけで終わっていました。家を出て、まっすぐ釣り場に向かって、暗いうちから竿を振って、釣れても釣れなくても日が高くなったら帰る。それの繰り返し。今思えば、せっかく遠くまで来ているのに、その土地のことを何も見ずに帰っていたんですよね。コンビニで買ったおにぎりを車の中でかじって、ガソリンスタンドで給油して、それで「遠征した」気になっていた。
でも、車中泊で泊まりがけになってから、その土地のものを食べたり、道の駅に寄ったりするようになって、釣行の充実感が一段上がった気がします。きっかけは単純で、夜になって腹が減ったときに、近くのスーパーがもう閉まっていて、仕方なく見かけた直売所みたいなところで魚を買ったことでした。それが思いのほか旨くて、「あれ、釣りに来てるのに釣ってない魚で晩飯がうまいのか」と妙に納得してしまった。それ以来、釣り場の周りを少し意識して見るようになりました。
釣果に一喜一憂しすぎると、ボウズの日は気持ちが沈んだまま帰ることになる。でも「食」と「温泉」という別の楽しみを噛ませておくと、釣れなかった日でも何かしら持ち帰るものがあるんです。これは精神衛生的にもけっこう大事で、長く釣りを続けるコツでもあると最近は思っています。
朝の漁港は宝の山
漁師町の朝は早い。朝4〜5時に港に着くと、水揚げが終わって魚を並べている直売所が開いていることがある。まだ薄暗いうちから漁師さんたちが発泡スチロールの箱を運んでいて、氷の匂いと潮の匂いが混ざった独特の空気が漂っている。エンジンのかかった軽トラと、ゴム長を履いたおじさんたちのざわめき。釣り場に向かう途中でそういう港の朝に出くわすと、ちょっと寄り道したくなるんです。
「今朝獲れたカキ」とか「地魚の昆布締め」とか、スーパーでは見ない魚が安く並んでいる。名前も知らない小魚が一山いくらで投げ売りされていたりして、おばちゃんに「これどうやって食うの?」と聞くと「煮付けが一番」とか「塩焼きでええよ」とか、調理法までセットで教えてくれる。それを買ってキャンプ飯の食材にするのが楽しい。値段もスーパーの半分くらいだったりするから、財布にもやさしい。
ただ正直に言うと、最初のころは何を買えばいいか分からなくて、結局無難な切り身ばかり選んでいました。見たことのない魚に手を出す勇気がなかった。失敗を恐れて挑戦しないのは、釣りでも食でも同じだなと反省して、今は「分からないものほど買う」ようにしています。聞いて教わって、家とは違うコンロで料理して、旨かったり微妙だったりする。その一連が旅っぽくていい。
釣果がなかった日も、漁港直売所で買った魚で夜ご飯が豪華になる。竿を振っても一匹も掛からなかった日に、人が獲った魚で晩飯がうまいというのは、考えてみればちょっと皮肉なんですけどね。でも「釣れなかったけどいい魚が食べられた」で帰れれば上出来です。ボウズを引きずらないための、おれなりの逃げ道みたいなものかもしれません。
道の駅の賢い使い方
地元野菜で炊き込みご飯
道の駅の農産物コーナーには、地元で取れた旬の野菜が並んでいます。スーパーの野菜とは違って、形が不揃いだったり、土がついたままだったりするんですけど、それがかえって旨そうに見える。生産者の名前が手書きで貼ってあったりすると、なんとなく安心して買えるんですよね。
釣り場が山間部なら、きのこや山菜。海沿いなら海産物の加工品。それをシングルバーナーと飯盒で炊き込みご飯にすると、キャンプ飯として最高です。やり方は単純で、研いだ米に醤油を少し垂らして、買ってきた野菜やきのこを刻んで放り込んで、あとは火にかけるだけ。火加減だけは慣れが要るんですが、噴きこぼれてきたら弱火にして、いい匂いがしてきたら火を止めて蒸らす。これだけで現地の旬がまるごと一杯のメシになる。
最初はちゃんと炊けなくて、芯が残ったり、逆に底を焦がしたりしました。飯盒の蓋の上に重しを乗せると圧がかかって炊きあがりが安定する、というのを学ぶまでに何度か失敗しています。でも、その焦げた飯すら屋外で食うと妙にうまかったりするのが車中泊メシの不思議なところで。完璧じゃなくていいんです、まぁ、楽しけりゃいいよね、というやつです。山で買ったきのこを山の駐車場で炊いて食う、という地産地消みたいな満足感が、おれは好きなんだと思います。
お土産感覚の地元調味料
地元の味噌、醤油、塩。調味料は持ち帰り用に小瓶で売っていることが多くて、車中泊の調理に使えます。小瓶というのが地味に大事で、大きい瓶を買っても車の中で場所を取るし、使い切れずに家の棚で眠ることになる。旅先で買う調味料は「その釣行で使い切れる量」がちょうどいい、というのが何度か買って分かったことです。
その土地の塩で塩むすびを握るだけで、いつもの白飯がぜんぜん違う顔になる。味噌だってメーカー品とは色も香りも違っていて、汁物にするとはっきり分かる。調理が雑なおれでも、素材と調味料がいいと、それなりに食えるものになるのがありがたい。
「岩手の南部せんべい」「能登の塩」「三陸のわかめ」など、その土地でしか手に入らないものを集めるのも楽しい。家に帰ってからそれを使って料理すると、釣行の余韻がしばらく続く。土産物って、その場のためじゃなくて、帰ったあとの自分のためでもあるんだなと、最近は思います。妻と息子に「これどこの?」と聞かれて、釣りに行った先の話をするきっかけにもなる。釣りに興味のない家族と、食を通じてつながれるのは思わぬ副産物でした。
渓流釣行エリアの「道の駅グルメ」
長野・岐阜・山梨の渓流によく行くのですが、道の駅の昼食がよかった記憶があります。渓流釣りは朝が勝負で、昼にはだいたい釣りが一段落するから、ちょうど腹が減ったタイミングで道の駅に転がり込むことになる。冷たい川に立ち込んで、ウェーダー越しに足が冷えきった状態で食べる温かい昼飯は、体の芯まで効きます。
山梨は「ほうとう」が道の駅食堂で食べられることが多い。野菜たっぷりの味噌仕立てで、太い麺が汁をたっぷり吸っていて、釣行で冷えた体に染みます。かぼちゃのほっこりした甘さが汁に溶け込んでいて、これを食べると「ああ、山に来たな」という気分になる。一杯で腹が満ちて、午後の眠気がすごいんですけど、どうせ午後は移動か仮眠だからちょうどいい。
長野は「おやき」や「山賊焼き」。おやきは野沢菜やあんこが包んであって、車の中で片手で食べられるのが釣り人にはありがたい。山賊焼きはとにかくデカい。鶏の一枚肉をニンニク醤油に漬けて揚げたやつで、皿からはみ出すサイズで出てくることもある。量が多くて安い。釣り疲れた体に最高です。正直、渓流に行くたびに「魚を釣りに来たのか飯を食いに来たのか分からん」と自分でも思うんですが、まぁ、両方楽しめてるならそれでいい。釣れた日はビクの中の小さなアマゴを眺めながら、釣れなかった日は山賊焼きを噛みしめながら、どっちにしても満足して帰れる。それが渓流×道の駅の組み合わせのいいところです。
温泉も必ず入る
車中泊釣行では、夜に近くの温泉や銭湯に寄ることをルーティンにしています。これは食と同じくらい、いやもしかすると食以上に欠かせない儀式になっている。一日中、潮風に当たったり川の冷たさに耐えたり、餌や魚で手が生臭くなったり、汗をかいたりしている。その体のまま狭い車内で寝ると、翌朝どんよりした気分で目が覚めるんです。
日帰り温泉は地方なら700〜1,000円で入れることが多い。釣りで使った体の疲れが取れて、その後の車中泊が快適になります。湯に浸かって、こわばった肩や腰がほどけていく感覚は、何度味わってもいい。露天があれば最高で、湯に浸かりながら今日の釣りを反芻する時間が、おれにとっては一日の締めくくりになっています。「あのアタリは合わせが早かったな」とか「明日はもっと沖を狙うか」とか、頭の中で次の作戦を立てるのもこの時間です。
「次の日の朝まずめに備えて早く寝る」ためにも、温泉でリセットする時間は大事です。体が温まったまま寝袋に入ると寝つきが段違いで、4年前に買ったモンベルのダウンハガーの保温力ともあいまって、寒い時期でもぐっすり眠れる。逆に、温泉をサボって汗と疲れを残したまま寝た日は、夜中に何度も目が覚めて、翌朝の集中力がまるで違いました。一回それで痛い目を見てから、どんなに眠くても温泉だけは外さないようにしています。釣りの成果を左右するのは、案外こういう地味な体調管理だったりするんですよね。
釣り場リサーチと地元情報
釣り場に着いて地元の釣具店に寄ると、「最近どこが釣れているか」という情報がもらえることがあります。これは食や温泉とはちょっと毛色が違うけど、釣行の充実度を地味に底上げしてくれる寄り道です。
地元の釣具店のおじさんは情報の宝庫で、「今はあそこのテトラが熱い」「今週はタチウオが入っている」など、ネットには載っていない最新情報をくれることがある。ネットの釣果情報は数日遅れていることが多いし、誰かが載せた釣果がアップされる頃には魚が抜けていることもある。でも地元の店のおじさんが持っている情報は、その日の朝に常連が報告していったような生の話だったりする。鮮度がまるで違うんです。
ただ、いきなり「どこで釣れますか」と聞いても、警戒されてあっさりした答えしか返ってこないこともあります。おれの場合、ハリスやワーム、オモリといった小物を一つ二つ買いながら世間話のように切り出すと、ぐっと話が弾みやすい。「いやー今日はさっぱりで」とこっちの失敗を正直に話すと、おじさんもニヤッとして「そりゃあ場所が違うわ」なんて手の内を教えてくれたりする。釣具店で道を聞くついでに情報収集するのが、釣行の組み方として合理的です。何より、地元の人と少し言葉を交わすこと自体が、その土地に来た実感を濃くしてくれる。釣って、食べて、浸かって、話す。この四つが揃うと、たかが日帰りや一泊の釣行が、ちょっとした小旅行になるんですよね。
釣行は「釣り+食+温泉」のセットで楽しむようになってから、格段に充実しました。釣りの腕は10年以上やっていてもそうそう劇的には上がらないけど、釣行そのものの満足度は、こういう寄り道をちょっと足すだけでいくらでも上げられる。釣れない日があっても、旨いものを食って、温泉でほどけて、地元の人と二言三言交わせば、「今日も来てよかったな」で帰れる。
腕を磨くのも楽しいけれど、釣れる釣れないだけに縛られていたころより、今のほうがずっと釣りが好きになっている気がします。結局のところ、長く続けられる趣味って、勝ち負けじゃなくて過ごし方なんだと思う。まぁ、楽しけりゃいいよね。
よくある質問
Q. 朝の漁港直売所はどんな時間帯に行けばいい?
朝4〜5時ごろに港に着くと、水揚げ後に並べ始めた直売所がちょうど開いていることがあります。釣りの朝まずめに合わせて動いていると、自然にその時間帯に漁港に着けます。早い時間ほど鮮度が高くて、珍しい魚が出回っています。
Q. 道の駅で買った野菜を釣行中に料理するには何が必要?
シングルバーナーとアルミクッカー(1〜2人用)があれば十分です。道の駅で旬の野菜や地元の調味料を買って、キャンプ場か漁港の駐車場で炊き込みご飯にするのがおれの定番です。コンパクトに収納できるスタッキング型のクッカーを選ぶと車中泊スペースを圧迫しません。
Q. 釣行中に温泉を入れるルーティンはどう組む?
夕まずめが終わったタイミングが一番スムーズです。釣りを終えて道具を片付けたら、近くの日帰り温泉(700〜1,000円)に向かう。体の疲れが取れると翌朝の朝まずめに向けた睡眠の質が全然違います。現地に着いたら最初に温泉の場所と営業時間だけ確認しておくと動きやすいです。
Q. 地元の釣具店で情報収集するコツは?
「最近どこが釣れていますか?」と素直に聞くのが一番です。地元の釣具店のおじさんは情報の宝庫で、ネットには出ていない最新情報を気軽に教えてくれることが多い。道を聞くついでに話しかけると自然な流れになります。何か小物(ハリスやワーム)を買うと話が弾みやすいです。
Q. 釣れなかった日でも釣行を充実させるには?
釣りだけが目的にならないようにすることです。おれは「釣り+食+温泉」のセットで釣行を組むようになってから、釣れなかった日でも「地元の旨いもの食えたし温泉入れたし上出来」で帰れるようになりました。漁港直売所で魚を買って自分で料理すれば、釣果がなくても夜ご飯は豪華になります。