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9月末のこと。

セロー225で林道を2時間ほど走ったところにある渓流に入りました。林道の最後のほうは舗装が切れて、湿った落ち葉とぬかるみの上をゆっくり登っていく。エンジンを切ると、急に音が消えて、川の流れる音だけが残る。あの瞬間がたまらなく好きなんです。

誰もいない。川の水は透き通っていて、底まで見える。石の表面にうっすら苔が付いていて、その間を小さな魚影がさっと走るのが見えた。木々が少し色づき始めていて、朝の光が水面に当たると、底の砂利がきらきらして見える。空気はもう冷たくて、息が白くなりそうなくらいでした。

正直に言うと、ここまで来るのに毎回少し気が重くなる瞬間がある。バイクでの林道2時間はそれなりに疲れるし、誰もいない山の中というのは、楽しさと心細さが半分ずつなんです。それでも川に立つと、その心細さが全部ほどけていく。来てよかった、といつも思う。

午前中に3匹釣れました。15〜18cmのイワナです。数だけ見れば地味かもしれない。でも、あの透明な水の中から出てきた魚を手のひらに乗せたときの、ひんやりした重さと、ぴちぴち跳ねる感触。それだけで、この日のために来た価値があったと思えました。


秋のイワナが釣れる理由

イワナは夏の間、水温が上がると深場や湧き水ポイントに隠れることが多い。真夏に同じ川へ行くと、日が高い時間はほとんど反応がなくて、木陰の落ち込みや、冷たい水が湧いている岩の隙間ばかりにこもっている。釣るにしても、暑い盛りは朝の早い時間か夕方の薄暗くなる頃に絞らないと、なかなか口を使ってくれません。

それが9月に入って水温が下がり始めると、活性が上がって浅瀬でも出てくるようになります。日中でも瀬の流れの中に魚が定位していて、エサが流れてくれば素直に食ってくる。同じ川とは思えないくらい、魚の出る場所が変わるんです。

秋は「産卵前の荒食い」という言われ方もする。産卵を前にエネルギーを蓄えようとして積極的に捕食する。そのため秋のイワナは比較的釣りやすく、型も良いことが多い。実際、この日釣れた3匹はどれもお腹がぱんと張っていて、夏の細い魚体とは明らかに違う、いい体つきをしていました。

ただ、釣りやすいからといって雑に攻めるとすぐ見切られる。秋の渓流魚は警戒心も強くて、人影が水面に映っただけでスッと消える。だから足音を立てず、川の流れの音に紛れるように、できるだけ下流側から忍び寄っていくのが基本だと思っています。釣りやすさと難しさが同居しているのが、秋のおもしろいところです。

10月以降は禁漁期間に入る河川が多い(遊漁規則によって異なる)。だから9月末はシーズン最後の山岳渓流釣りになることが多く、記憶に残りやすい時期でもあります。「もうしばらくこの川に来られない」と思うと、一投一投が妙に愛おしくなる。終わりが見えているから余計に集中する、というのもあるのかもしれません。


使ったタックルと仕掛け

渓流の細い支流だったので、軽い仕掛けを使いました。

  • 竿: 渓流竿 4.5m
  • 仕掛け: 天井糸0.8号・水中糸0.3号・ハリス0.2号・袖バリ3号
  • エサ: 現地で採ったミミズ(川辺の湿った土の下)

水中糸0.3号というのは、ぱっと聞くと頼りなく感じるかもしれません。おれも最初はもっと太い糸を使っていて、何度も見切られて悔しい思いをしました。透明度の高い渓流では、糸が太いだけで魚が警戒する。細い糸に替えてから、明らかに食いが良くなった。根掛かりで切れることも増えるけれど、それは交換しながらやればいいだけの話。釣れない太糸より、切れる細糸のほうがずっとマシ、というのがおれの結論です。

ハリも袖バリの3号という小さいものを使っています。イワナの口は思ったより小さくて、大きいハリだと掛かりが浅くなってバラしやすい。小さいハリのほうがすっと吸い込ませやすいんです。

ミミズは現地調達が一番です。事前に土産物屋で買うこともありますが、現地のものが反応が良い気がする。理屈はよく分かりません。普段その川にいる生き物のほうが魚も警戒しないのか、現地の土から掘り出したミミズのほうが食いが立つ。川辺の少し湿った石の下や、倒木の裏あたりを掘ると、たいてい何匹か出てきます。これも渓流釣りの楽しみの一つだと思っていて、エサ探しからもう釣りが始まっている感覚があります。

キャストというより「落とす」釣り。石の影や流れのヨレに静かに入れて、自然に流していく。大事なのはエサをいかに自然に流すかで、糸を張りすぎるとエサだけ不自然に浮いて、すぐ見切られる。ほんの少し糸を緩めて、エサが川の流れと同じ速さで流れていくように調整する。目印がふっと止まったり、わずかに横に走ったりした瞬間に、手首だけで軽く合わせる。この一連の感覚が決まったときが、渓流釣りで一番気持ちいい瞬間かもしれません。


焚き火で塩焼きにした

釣れた3匹は、すぐに川で締めて保冷剤の入ったクーラーに入れた。締めるのは魚のためでもあるし、味のためでもあります。生きたままクーラーで暴れさせると身が傷むし、見ていて気持ちのいいものでもない。せっかく食べさせてもらう魚だから、できるだけ手早く、丁寧にやる。これはおれなりのけじめみたいなものです。昼前に川から上がり、河原で昼食にしました。

焚き火の準備

河原の石を集めて小さな竈をつくる。あまり大きくする必要はなくて、魚を炙れるくらいの小さな炎で十分。むしろ大きな火は遠火で焼きにくくなるので、こぶしより少し大きいくらいの石を三方に組んで、風の通り道を一カ所だけ開けておく。これだけで火の持ちが全然違います。

燃料は上流から流れ着いた流木。乾いたものを選ぶ。ここで一番やりがちな失敗が、湿った木を使ってしまうことです。おれも以前、見た目は乾いていそうな木を拾って組んだら、煙ばかりもうもうと出て全然火が回らず、魚を焼く前に心が折れかけたことがありました。木は手に取ってみて、軽くて、折ったときにパキッと乾いた音がするものを選ぶ。河原の石の上で日に当たっていた木は中まで乾いていることが多いので、そういうのを探します。着火用に細い枝や枯れ草を下に敷いて、火が小さいうちはとにかく風を送って育てる。焦って太い薪を一気にくべると、せっかくの火種を潰してしまうので、細いものから順番に、という当たり前のことを守るのが結局一番の近道です。

塩焼きの手順

  1. イワナのウロコと内臓を取る(ウロコはほとんどない魚なので、主に内臓処理)
  2. 水気をよく拭く
  3. 粗塩を全体にまぶして、ヒレにも多めにつける(焦げ防止)
  4. 串を打つ。頭から尾に向けて、魚が泳ぐような弓形の形にする
  5. 焚き火の遠火でじっくり焼く。15〜20分

遠火でじっくり、というのがコツです。強い火で一気に焼くと、表面だけ焦げて中が生焼けになる。逆に遠火で時間をかけると、皮はぱりっと、身はふっくらと火が通る。串を時々回しながら、脂が皮の表面ににじんで、塩がうっすら白く浮いてきたら焼き上がりの合図。串を持つ手に伝わってくる、身がしっかり固まった感触でも分かります。

食べてみた

熱々のイワナにかぶりつくと、皮がぱりっと割れて、中からほろほろの白い身が出てくる。粗塩の塩気と、川魚特有のほのかな香りが口の中に広がる。骨離れもよくて、頭から尾までほとんど残さず食べられました。

あの焚き火の匂い、川の音、少し冷えた秋の空気。その全部が一緒になって、塩焼きが格別においしかった。指先は冷えているのに、口の中だけが熱い。その温度差まで含めて、ごちそうだった。

スーパーで買うイワナと同じ魚のはずなのに、全然違う。釣り場で食べるということが、味の一部になっているんだと思います。自分で釣って、自分で火を起こして、自分で焼いた。その手間の全部が調味料になっている。便利な世の中で、わざわざ遠回りをして食べる一匹だからこそうまい、というのは、理屈じゃなくて体で分かる感覚です。これは買って損なかった、なんて道具の話じゃなくて、この一日そのものが何にも代えがたかった。


持ち帰り分は真空パック保存

釣れた魚を全部その場で食べるわけにはいかない。持ち帰り分は血抜きしてから氷漬け、家では真空パックにして冷凍します。

血抜きは現地で締めるときに済ませておく。エラの付け根に刃を入れて、川の流れの中でしばらく振っておくと、きれいに血が抜けていく。これをやるかやらないかで、持ち帰ってからの臭みが全然違うんです。おれも昔は面倒くさがってそのままクーラーに放り込んでいた時期があって、家で焼いたら独特の生臭さが残って、家族にあまり評判がよくなかった。ちゃんと血を抜くようになってから、「今日のは臭くないね」と言われるようになりました。ひと手間の差は、食卓に並んだときにはっきり出ます。

真空パックにすると冷凍焼けがほとんどない。これが本当にありがたい。普通にラップとポリ袋で冷凍すると、どうしても袋の中に空気が残って、その部分から白っぽくパサついていく。冷凍焼けした魚は、焼いても身がぼそぼそで、せっかく釣ってきた一匹が台無しになる。真空パックは空気を抜いて密封するから、その劣化がほとんど起きない。2〜3ヶ月後に食べても、釣りたての味に近い状態で食べられる。渓流に行けるのは限られた季節だけだから、こうして秋の一匹を冬まで楽しめるのは、ちょっとした贅沢だと思っています。

イワナの場合は骨が軟らかいので、冷凍から一度解凍して骨まで食べられます。じっくり焼けば中骨まで香ばしくなって、まるごと食べられる。骨を残さず食べられると、なんだか魚に申し訳が立つような気もして、おれはこの食べ方が気に入っています。


秋の渓流に行くなら

渓流の秋は短い。9月に入ったらできるだけ早く行きたい。

10月には禁漁になる川が多く(都道府県・漁協によって規則が異なるため事前確認が必要)、水温が下がりすぎると魚の活性も落ちる。「良い時期」は2〜3週間しかない。この限られた窓を逃すと、また来年まで山岳渓流のイワナには会えなくなる。だから秋の天気予報とにらめっこして、晴れて川の水が落ち着いていそうな日を見つけたら、なんとか予定をやりくりして出かけるようにしています。

行くなら防寒だけは少し意識したほうがいい。秋の渓流は朝晩の冷え込みが思った以上にきつくて、半端な格好で行くと、釣りに集中する前に体が冷えて気持ちが切れてしまう。薄手の上着を一枚多めにザックに入れておくだけで、川辺で過ごす時間の快適さがまるで変わります。これも何度か寒さで早上がりして後悔した末に学んだことです。

セローで林道を走りながら渓流を上っていくのが、年間で一番好きな釣りかもしれません。大物は出なくていい。小さくてもいいから、その場で食べられれば十分。誰に見せるわけでもない、自分だけのための一日。釣果を競うわけでも、SNSに上げるわけでもなく、ただ静かな川で魚と向き合って、火を起こして食べて帰る。それだけのことが、なぜこんなに満たされるのか、自分でもうまく説明できません。

まぁ、楽しけりゃいいよね。


よくある質問

Q. 秋のイワナ釣りはなぜ釣りやすいのですか?

9月に水温が下がると活性が上がり、産卵前の荒食い時期にあたるためです。夏は深場に潜っていたイワナが浅瀬にも出てくるようになり、型も良いことが多いです。

Q. 渓流釣りのエサは何を使えばいいですか?

現地で採ったミミズが一番反応が良いです。川辺の湿った土の下を掘ると採れます。事前に釣具屋で買うこともできますが、現地調達のほうが食いが良い気がします。

Q. イワナの塩焼きの作り方を教えてください。

内臓を取って水気を拭き、粗塩を全体にまぶしてヒレにも多めにつけてから串を打ち、焚き火の遠火でじっくり15〜20分焼くと皮がパリっと仕上がります。

Q. 釣ったイワナを持ち帰るときはどうすればいいですか?

血抜きして氷漬けで持ち帰り、家で真空パックにして冷凍するのがおすすめです。空気を抜いて密封すると冷凍焼けがほぼゼロになり、2〜3ヶ月後でも釣りたての味に近い状態で食べられます。

Q. 渓流釣りの禁漁期間はいつですか?

都道府県や漁協によって異なりますが、多くの川では10月頃から禁漁期間に入ります。9月末はシーズン最後になることが多いので、事前に各漁協の遊漁規則を必ず確認してください。


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