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イカを釣ったことがなかった。

釣り歴は10年以上あるのに、イカだけはずっと縁がなかったんです。アジやメバル、渓流のヤマメまでひと通りやってきたのに、イカという生き物だけは「なんとなく難しそう」という壁があって、ずっと避けてきました。

エギングという釣りがあることは知っていたけど、「投げてしゃくって」という動作の意味がよくわからなくて、長い間手を出せなかった。竿を上下に振って何が起きているのか、上げ下げのリズムにどんな意味があるのか、外から見ているだけではさっぱりわからなかったんです。ロッドを買って失敗したくないという気持ちもあって、ずるずると「いつか」を先延ばしにしていました。

転機になったのは、春にキャンプで泊まった港でした。夕方、テントを張り終えてのんびり海を眺めていたら、すぐ隣の堤防でおじさんが次々とアオリイカを上げている。バケツの中でイカがびゅっと墨を吐くたびに、おじさんが嬉しそうに笑っている。その光景を見ているうちに、「自分もやってみよう」という気持ちがむくむく湧いてきたのが始まりです。まぁ、釣れている人を間近で見せられたら、やってみたくなるのが釣り人の性ですよね。


春のアオリイカは大型シーズン

アオリイカは春と秋に釣りやすいですが、春は産卵のために浅場に入ってくるので大型が釣れやすい時期です。

秋は新子と呼ばれる小型がたくさん釣れる数釣りシーズンですが、春は逆に「数は出ないけどデカいのが来る」一発勝負の季節。冬の深場で成長したイカが、産卵のために岸近くまで寄ってくる。だから春のエギングは、釣れる回数は少なくても一杯の重みがまるで違うんです。

水温が上がる4〜6月がメイン。藻場や沈み根の近くに卵を産みに来るため、そのようなポイントを狙います。岸際に海藻がゆらゆら茂っているところや、足元から沖に向かって沈み根が点在しているところ——アオリイカはそういう「身を隠せて卵を産み付けられる場所」が大好きなんです。逆にツルッとした砂地ばかりのポイントだと、春イカはなかなか寄ってきません。おれが釣れたときも、足元に海藻が広がっている堤防の角でした。

サイズは1〜2kgの個体も珍しくない。手のひらに乗らないくらいの胴体で、持ち上げると腕にずしっとくる重さがあるそうです。引きが強く、エギが吸い付くような独特のアタリがあります。魚みたいにガツンと一気に走るんじゃなくて、ぬーっと重くなって、そのまま反対方向へ引っ張っていく。最初は「何が起きているのか」がわからない、不思議なアタリなんですよ。この独特の感触を一度味わうと、また狙いたくなる——おじさんが笑っていた理由が、釣れてみてようやくわかりました。


最初のエギングで失敗したこと

隣の人のしゃくり方を見て「簡単そう」と思いました。竿をひょいひょいっと上げるだけに見えたんです。あんなの真似すればすぐできるだろう、と。今思えば、この「簡単そう」という思い込みが、最初の3時間を棒に振った原因でした。

でもエギの飛距離が出ない。おれが投げると、おじさんの半分くらいのところにポチャンと落ちる。同じエギを使っているのに、なぜこんなに飛ばないのか。あとでわかったんですが、垂らし(竿先からエギまでの長さ)が短すぎて、振り抜く勢いがエギに伝わっていなかったんです。

それからフォール中に糸が緩んでアタリが取れない。エギを沈めている間、ラインがだらーんとたるんでいて、その間にイカが触っていても全然気づけない。あとで聞いたら、春イカのアタリの大半はこの「沈めている時間」に出るらしくて、つまりおれは一番大事な瞬間をずっと見逃していたわけです。

しゃくりのテンポもバラバラで、エギが安定しない。強く振ったり弱く振ったり、間を取ったり取らなかったり。水中でエギが千鳥足みたいにフラフラしていたんだと思います。イカからしたら「なんだか挙動の怪しいエサ」に見えていたはずで、これじゃ抱きつく気にもならないですよね。

3時間粘って、結局アタリらしいアタリもなし。腕は疲れるし、隣のおじさんはもう3杯目を上げている。正直「やっぱりイカは難しい、おれには向いてないのかも」と心が折れかけました。でも、ここで道具をしまわなくてよかった。見かねたおじさんが声をかけてくれたんです。「フォール中は糸を少し張って待つ」「しゃくる高さを一定にする」。たったこの2点を意識しただけで、世界が変わりました。糸を軽く張ると、エギが沈んでいく途中の小さな変化が指先に伝わってくる。しゃくりの高さを揃えると、エギの動きが安定する。教わった通りにやり直して、1時間後にようやく釣れた。コツというのは、知っているかどうかだけで結果がこんなに変わるんだと、しみじみ思いました。



春のアオリイカが釣れたときの感触

ラインが急にふわっと弛んだ。エギを沈めている途中で、それまで張っていた糸がふっと軽くなった瞬間でした。最初は「根がかりかな」と思った。藻場を狙っていたので、また海藻に引っかけたんだろう、と。

でも教わった通り、迷わず竿を立てて合わせを入れました。そうしたら重い。明らかに海藻とは違う、ずっしりとした重みが乗っている。しかもその重さが動いているんです。海藻なら引っかかったまま動かないけど、これはぐいぐいと反対方向へ引っ張っていく。心臓がばくばくしました。「これ、イカじゃないか」と頭が真っ白になりながら、リールを巻いた。あの、ぐいぐいと引っ張る感触がイカのジェット噴射なのだと、後で知りました。海水を吸い込んで一気に吐き出して、後ろ向きに逃げようとする。だから魚とは引きの質がまったく違うんですね。

水面に姿が見えたとき、半透明の胴体が夕日に透けてキラッと光った。あれは一生忘れられない景色です。慎重に堤防まで寄せて、ランディングしたアオリイカは800gくらい。春イカとしては小型で、おじさんが上げていたのに比べたら正直見劣りします。でも自分にとっては初めてのイカ。手に持つとひんやりして、墨を吐かれて手が真っ黒になったけど、そんなことはどうでもよかった。嬉しすぎて、いろんな角度から写真を撮りまくりました。隣のおじさんも「やったじゃない」と自分のことみたいに喜んでくれて、それがまた嬉しかったんです。


釣ったアオリイカの調理

その日の夜、キャンプ場でアオリイカを捌きました。ランタンの灯りの下、まな板を出してきて、ポータブル電源で手元のライトをつけて。釣ったその日の夜に、自分で釣った獲物を捌いて食べる——車中泊釣行のいちばんの楽しみがこれなんです。

イカを捌くのは初めてだったので、スマホで手順を見ながら恐る恐るやりました。胴体に指を入れて軟骨を抜いて、ワタを切らないように引き出して、皮を剥ぐ。慣れていないからゲソもぐちゃぐちゃになったけど、それも込みで楽しい時間でした。

アオリイカは新鮮であれば刺身が一番。皮を剥いで薄切りにしただけで、口に入れた瞬間にねっとりとした甘みと旨みが広がる。噛むほどに甘くなるんです。スーパーで売っているものとは、正直まったく違う味がしました。釣りたてだからこその、透き通った身の食感。これを味わってしまうと、なぜみんなイカを狙うのかが舌でわかります。

胴体はリング切りにして、ガーリックバターで炒めるのも好き。じゅっと焼けるいい匂いがテントサイトに広がって、たまらない。足はそのまま焼いて、熱いうちに醤油をたらして食べる。香ばしさと弾力が酒のつまみに最高なんです。一杯のイカで刺身・炒め物・焼きと食べ方を変えられるのが、イカ釣りのいいところ。魚と違ってアラが少ないから、無駄なく食べ切れるのもありがたい。まぁ、こんなふうに自分で釣って自分で食べる夜があるから、おれは釣りキャンプをやめられないんですよね。


まとめ

エギングは最初ちょっとハードルが高いけど、コツをつかむと面白い。「投げてしゃくって」の意味がわからずに何年も避けてきたおれでも、フォールの待ち方としゃくりの高さ、この2点を意識しただけで釣れたんです。逆に言えば、その2点を知らないとどれだけ粘っても釣れない。釣れない人と釣れる人の差は、センスじゃなくて「知っているかどうか」なんだと、身をもって学びました。

そして春の大型シーズンは、実は初心者にこそチャンスのある時期だと思います。産卵で岸近くまで寄ってくるから、足元の藻場を丁寧に探るだけで一杯に出会える可能性がある。沖まで遠投しなくても勝負になるのは、飛距離が出ないおれみたいな初心者にはありがたい話でした。

まぁ、隣のおじさんに声をかけてもらわなかったら、今でも「イカは難しい」と思い込んだまま釣れていなかったかもしれない。あの一言がなかったら、おれはエギングを諦めていたと思います。人の親切は大事。だから今度は、もし港で困っている初心者がいたら、おれが声をかける番だな——なんて思いながら帰りの軽バンを走らせました。これは買って損なかった、いや、やって損なかった一日でした。


春エギングについてよく聞かれること

Q. 春エギングのベストな時間帯はいつですか?

朝マズメと夕マズメが釣れやすいです。夜明け前後の1〜2時間は産卵で浅場に入ってきた春イカの活性が高い。昼間は深めのレンジをゆっくり探るのが有効です。

Q. エギのカラーはどう選べばいいですか?

基本は「昼はナチュラル系、夜や濁りにはアピール系」です。春の澄んだ水では金テープや銀テープのナチュラルカラーが定番。曇りや濁り潮のときはオレンジ・ピンクなど見えやすいカラーに変えます。

Q. フォール中にアタリがあったらどうすればいいですか?

ラインが急に弛んだり、フォールが途中で止まったりしたらアタリのサインです。すかさず竿を立ててシャープに合わせを入れてください。エギが沈み切ってから合わせると遅すぎることが多いので、フォール中は糸を軽く張って待つクセをつけましょう。

Q. 3時間やっても釣れないときはどうすればいいですか?

「場所を変える」か「エギのサイズやカラーを変える」のどちらかを試してみてください。春イカは群れで入ることが多いので、そのポイントにいないだけのこともあります。同じ場所で同じ動作を繰り返し続けるより、少し歩いて別のポイントを試すほうが効果的です。

Q. 根がかりが多くてエギをなくしてしまいます

春は藻場を狙うことが多いので根がかりは避けられません。フォールスピードが速すぎると底に引っかかりやすいので、シャロータイプ(沈下が遅いエギ)を使うのが有効です。また着底したら素早くシャクって底を離すことで根がかりを減らせます。



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