夏の堤防を歩いていたら、壁際のテトラのすき間にタコがいた。
普通に歩いていたら気づかなかった。たまたま水面を覗き込んだときに、岩と同じ色をしたタコが動いた。それがタコ釣りを始めたきっかけです。
最初は岩だと思ったんです。コンクリートの継ぎ目にこびりついた、ちょっと色の濃いコブみたいなもの。でもじっと見ていたら、その「岩」のふちがゆっくり波打って、つーっと横にずれた。心臓がひゅっとなりました。海の中に、まわりの色と完全に同化したやつが、平然と暮らしている。あの瞬間の「えっ、いたの?」という感覚は今でも忘れられません。
そのときはタコエギも持っていなかったので、ただ見ているだけでした。手を伸ばせば届きそうな距離なのに、何もできない。指をくわえて、テトラのすき間に吸い込まれるように消えていくタコの後ろ姿を見送っただけ。家に帰ってからも、あの色の変わりようと、堂々とした動きが頭から離れなくて、その週のうちにタコエギを買いに行きました。
釣りって、釣れた魚に夢中になることが多いけど、おれの場合はタコに関しては「見つけてしまった」ことがスタートでした。狙って始めたんじゃなくて、向こうから視界に入ってきた。だからよけいに、次は仕掛けを持って会いに行こう、という気持ちになったんだと思います。
タコ釣りの道具は最低限でいい
タコ釣りのいいところは、道具が少なくて済むことです。
必要なのはタコエギ(タコジグ)1〜2個と、丈夫な竿とライン。軽バンの限られたスペースで釣り道具を積むやまちゃんには、荷物が増えないのは助かります。ハイゼットカーゴの荷室はそれなりに広いとはいえ、車中泊用のマットや寝袋、ポータブル電源まで積むと、釣り道具に割けるスペースは案外ない。だから「これ一本で完結する」釣りは、おれにとってありがたいんです。タコ釣りは竿1本とエギ数個をすき間に放り込んでおけば成立するので、思い立った日にふらっと寄れる。
エギも、おれは最初に欲張って何個も買ってしまったクチですが、正直そんなにいりませんでした。気に入ったカラーを1〜2個と、根掛かりでロストしたとき用の予備が1個あれば、岸壁タコなら十分やれる。最初に大量に揃えて、結局2個しか使わなかったのは、ちょっとした失敗でした。
タコエギは底を転がして使います。堤防の際を沿わせて、テトラのすき間を狙う。投げて巻くというより、底をズルズルと「歩かせる」イメージに近い。竿先を少し立てて、エギが底をこする感触をずっと指で感じながら、ゆっくり手前に寄せてくる。根掛かりと紙一重の世界なので、最初はよく引っかけました。でも、その「ゴツゴツ」と岩を乗り越えていく感触のなかに、ふっと重みが乗る瞬間があるんです。
アタリは竿先がぐっと重くなる感触。岩を乗り越えた重さと、タコが乗った重さは、慣れるまで区別がつきません。おれも何度も「タコだ!」と思って合わせたら、ただの石や海藻だったことがあります。でも本物のタコは、重さのあとに「ぐーっ」と粘るような抵抗が続く。そこが石との違いです。急いで合わせず、まずは重みを感じたまま少し送って、しっかり乗ったのを確かめてからゆっくり巻く。焦って一気に引くと、まだ吸い付ききっていないタコがすっぽ抜けます。この「ためる間」を覚えると、バラシがぐっと減りました。
竿については、タコ専用のものを最初から買う必要はないけれど、ある程度しっかり張りのある硬めの竿のほうが、テトラに張り付いたタコを引きはがしやすいです。やわらかい竿だと、タコの粘りに負けて主導権を握られる。手持ちのシーバスロッドやエギングロッドでも十分始められるので、まずは家にある一番丈夫な竿でやってみるのがおれのおすすめです。
岸壁タコの狙いどころ
タコは根に着く生き物です。テトラ・岩・捨て石・コンクリート壁の際が狙い目になります。
つまり、魚みたいに広く投げて探る釣りではなくて、「いそうな穴を一個ずつチェックしていく」釣りなんです。だだっ広い砂地の沖に向かって投げても、タコはまずいない。それより、足元のテトラのすき間、岸壁の角、捨て石が積んであるところ。隠れられる影と、エサになる小魚やカニが集まる場所に着いている。おれは最初、沖に向かって遠投ばかりしていて、ぜんぜん釣れませんでした。あるとき足元の壁際に落としてみたら一発で乗って、「なんだ、ここにいたのか」と拍子抜けしたのを覚えています。タコは遠くじゃなくて、自分のすぐ下にいることが多い。
夏から秋にかけてが本番。水温が上がると浅場に出てくるので、足元から狙えます。逆に言うと、寒くなると深いところに落ちていくので、岸壁から手軽に狙える時期は限られている。だからこそ夏の港は、タコを意識して歩くだけで楽しい。どのテトラのすき間が怪しいか、どの壁の角が影になっているか、目で探しながら歩くのが、もう半分釣りみたいなものです。
初めて釣ったのは夏の終わりでした。テトラ帯の際をタコエギで転がしていたら、急に重くなった。最初は「また根掛かりか」と思ったんです。でも引っ張ると、根掛かりとは違う、生きものの重さが返ってきた。タコは張り付いて抵抗するので、力ずくで引き抜くか、すき間から誘い出すかのどちらか。テトラの奥に吸い付かれると、こっちは岸の上、向こうは穴の中で、完全ににらみ合いです。引いては緩め、引いては緩めを繰り返して、向こうが移動しようとした一瞬を逃さずに寄せる。30分くらい粘って、最終的に外に出てきました。水面に上がってきたタコが、墨を吐きながらぐにゃぐにゃ暴れたとき、おれは一人で「やった」と声が出てました。あの一杯で、完全にタコ釣りにハマったんです。
夏の車中泊×タコ釣りの流れ
夏の釣り車中泊は暑くて苦手だけど、タコ釣りは日が沈んでから涼しい時間に出かけられる。
正直に言うと、おれは夏の車中泊があまり得意じゃありません。昼間の軽バンの荷室は、停めているだけでサウナみたいになる。ポータブル電源でファンを回しても、日中の暑さは根本的にどうにもならない。だから夏は無理に長居せず、暑さがやわらぐ時間に合わせて動くのが、おれなりのスタイルになりました。タコ釣りは、その「夕方から動く」リズムにぴったりはまるんです。
夕方に港に着いて、涼しくなった夕暮れにタコエギを投げる。アスファルトの照り返しが消えて、潮の匂いがふっと濃くなる時間帯。Tシャツの背中が乾いていくのを感じながら、足元の壁際をズルズルと探っていく。この、誰もいなくなった夕方の堤防でひとり竿を出している時間が、おれはけっこう好きなんです。1〜2杯釣れたら車に戻って仮眠して、翌朝マズメは別の魚を狙う。日が落ちてタコ、朝起きて別の魚、という二段構えにすると、一回の釣行が濃くなる。この流れが気に入っています。
タコはキャッチ後にそのまま氷締めにして、翌日刺身にするか茹でて食べる。クーラーの中でしっかり冷えたタコを、車のそばで眺めながら「今晩これ食えるのか」と思うと、それだけで満たされた気持ちになる。釣って食べるが完結する釣りとして、車中泊との相性がいいです。まぁ、楽しけりゃいいよね、という気分でやっているおれにとって、晩のおかずまで持って帰れるタコ釣りは、なかなか欲張りな遊びなんです。
釣ったタコの処理
タコは活きたまま袋に入れると脱出するので注意です。
これは本当に油断できなくて、おれも最初の頃にやられました。クーラーに入れたつもりが、ちょっと目を離したすきに袋のすき間からにゅるっと這い出して、車の床で逃走をはかっていた。あのぐにゃぐにゃした体は、どんな小さなすき間からでも出てくる。だから持ち帰る前にきちんとシメるのが、結局いちばん確実なんです。
目の間を指で押してシメるか、袋の中でもみ込んでぬめりを取ってから持ち帰る。このぬめり取りが地味に大事で、ここを丁寧にやっておくと、家での下処理がうんと楽になります。塩でしっかりもみ込むと、白いぬめりがびっくりするほど出てくる。これを流水で洗い流して、ぬめりが出なくなるまで繰り返す。最初は「こんなに?」と思うくらいもみますが、ここで手を抜くと茹で上がりの口当たりが変わってくる気がします。
茹でるときは鍋に入れて中火で20〜30分。タコ足1本1本がすっと切れるやわらかさになれば完成。醤油とわさびだけで十分です。茹でたてを薄く切って、まだほんのり温かいうちに口に入れると、身がぷりっと弾けて、噛むほどに甘みが出てくる。スーパーのパックで売っているタコとは、正直、別物だと思いました。
タコ飯にするのもいい。ぶつ切りにして米と一緒に炊くだけで、炊き上がりに蓋を開けた瞬間、磯の香りがふわっと立つ。釣ったタコは買ったものより味が濃い気がします。気のせいかもしれないけど、自分で苦労して引きずり出した一杯だと思うと、よけいにうまく感じるのかもしれません。これは買って損なかった、ならぬ、これは釣って損なかった、です。
まとめ
タコ釣りは入門のハードルが低く、道具も少なくて済む。夏の港でのんびり岸壁を歩きながら狙えるので、ほかの釣りの合間にも楽しめます。
おれがタコ釣りを始める前は、正直「タコなんて専門の人がやる難しい釣りだろう」と思い込んでいました。でも、きっかけは岸壁でたまたま見つけた一匹で、実際にやってみたら竿1本とエギ数個で成立する、拍子抜けするくらい身近な釣りだった。最初に大量にエギを買ったり、沖に遠投ばかりしていた頃の遠回りを思えば、もっと早く足元を狙えばよかったと思います。考え方が変わったのは、「タコは遠くじゃなくて自分の真下にいる」と腑に落ちてからでした。
タコが取れたら晩ごはんの材料確保なので、これほど実用的な釣りはないかもしれない。釣り場で「えっ、いたの?」と驚いた一匹が、その晩には食卓に上がる。見つける楽しさ、引きずり出す駆け引き、そして食べるうまさまで、ぜんぶがひと続きになっている。タコ釣りは、夏の堤防をただ歩くだけの時間を、まるごと楽しい時間に変えてくれる遊びだと思っています。
タコ釣りについてよく聞かれること
Q. タコはいつ釣れやすいですか?
夏から秋にかけてが岸壁タコの本番です。水温が20度を超えると浅場に出てきます。時間帯は昼間でも夜でも釣れますが、夕方から夜にかけてのほうが活性が高い印象があります。
Q. タコエギのカラーは何色がいいですか?
赤・オレンジ・ピンクがタコには定番です。タコはエギのカラーより匂いや動きに反応するという説もあるので、色よりも底を這わせる動かし方を安定させるほうが釣果に影響します。
Q. タコが岩に張り付いて取れないときはどうすればいいですか?
引っ張り続けると吸盤を傷めることがあります。テンションを緩めて少し待つと、タコが移動しようとしてはがれることがあります。または反対の方向から引くのも有効です。強引に引き抜こうとするとラインが切れることもあるので焦らないのが一番です。
Q. タコはどうやって持ち帰ればいいですか?
活きたままだと袋を突き破って逃げることがあります。目と目の間を指でしめてから、氷入りのクーラーに入れるのが確実です。氷締めにすることで鮮度も保てます。タコは早めに処理するのがベストです。
Q. タコ釣りに専用の竿は必要ですか?
タコエギが底を取れれば何でもいいので、専用竿は不要です。シーバスロッドやエギング用のロッドで代用できます。硬めのロッドのほうがフッキングしやすいですが、タコ専用竿を最初から買う必要はありません。